日本で生まれたサラブレッドは、競走馬としてデビューするよりずっと前、原則として生まれた年のうちに「血統登録」の審査を受けます。血統登録を行うのは、JRAでも地方競馬でもなく、公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル(JAIRS)です。血統登録と競走馬登録は別の手続きで、順番もはっきり決まっています。
結論:サラブレッドの血統登録の要点
- 日本のサラブレッドの血統登録は、JAIRSが行います。JAIRSの登録は、血統と個体を明らかにする「血統登録」と、繁殖に使う馬の繁殖成績を明らかにする「繁殖登録」の2つです。
- 国内で生まれた馬の血統登録を申し込めるのは、原則として、繁殖登録を受けた父馬と母馬の間に生まれた馬です。人工授精や受精卵移植、クローン技術によらない産駒であることも条件になっています。
- 登録の際には、馬の実物の審査に加えて、DNA型検査(または血液型検査)で親子関係に異常がないか確認します。
- 2026年のJAIRSの資料では、国内で生まれたサラブレッドの血統登録料は16,000円(税込)です。これは生まれた年の11月30日までに申し込む場合の金額で、DNA型検査手数料2,800円が別にかかります。
- 血統登録は競走馬登録とは別物です。血統登録証明書が交付され、馬名登録を済ませたうえで、JRAまたはNARの競走馬登録に進みます。
血統登録とJAIRSの役割
JAIRSとはどんな団体か
JAIRSの基本情報ページによると、JAIRSは2010年に財団法人競馬国際交流協会と財団法人日本軽種馬登録協会が合併してできた団体で、2012年1月4日付で公益財団法人として新たに発足しました。定款に掲げる事業には、軽種馬の血統登録・繁殖登録・馬名登録と登録証明書の交付、そして軽種馬の血統書の発行が含まれます。
JAIRSが登録するのは、サラブレッド、アラブ、アングロアラブ、サラブレッド系種、アラブ系種の5品種です。サラブレッドとアラブ・アングロアラブの違いは「軽種馬とは?サラブレッドとアラブ・アングロアラブの違いを解説」で説明しています。
JAIRSの発表では、2025年の血統登録頭数は8,107頭でした。内訳は内国産が7,964頭、輸入馬が143頭で、アラ系統の登録はなく、すべてがサラ系統でした。
血統登録と繁殖登録はどう違うか
登録規程は、登録を血統登録と繁殖登録に分けています。
| 血統登録 | 繁殖登録 | |
|---|---|---|
| 規程上の位置づけ | 血統及び個体識別を明らかにする登録 | 繁殖の用に供する馬の繁殖成績を明らかにする登録 |
| 対象 | 血統登録を申し込める馬(下の「血統登録の条件」を参照) | 繁殖の用に供する馬(血統登録を受けた馬、繁殖用の輸入馬など) |
| 原簿の主な記載事項 | 品種、登録番号、性、毛色、生年月日、特徴、血統、産地、母馬所有者、生産牧場など | 品種、登録番号、馬名、毛色、生年月日、特徴、血統、所有者、繁殖成績など |
血統登録を受けた馬が種牡馬や繁殖牝馬になるときは、あらためて繁殖登録を申し込みます。JRAの競走馬登録やNARの馬登録を受けている馬は、抹消してから申し込む決まりです。繁殖入りまでの流れについては、「種牡馬・繁殖牝馬とは?2つの違いと繁殖入りまでの流れをわかりやすく解説」もあわせて読んでみてください。
血統登録の流れ:種付けから血統登録証明書の交付まで
国内で生まれたサラブレッドの血統登録は、おおむね次の流れで進みます。誕生からデビュー、引退までの全体像を知りたい方は、「競走馬の一生」もご覧ください。
- 種付けと種付証明書:繁殖登録を受けた種雄馬と種雌馬が交配します。家畜改良増殖法第9条第4項により、種付けを受けた雌の家畜の飼養者から種付証明書の交付を求められた種畜の飼養者は、正当な理由がなければ拒めません。この種付証明書は、血統登録の申込みに添える書類の一つです。
- 繁殖成績の報告:繁殖登録を受けた種雌馬の所有者は、毎年5月31日までに繁殖成績報告書を提出します。産駒がいない場合も提出するよう、JAIRSは案内しています。この報告書をもとに血統登録申込書が作られ、登録審査の約10日前に生産牧場へ届きます。
- マイクロチップの埋め込み:登録審査の日までに済ませておきます。
- 定期登録審査:JAIRSが地区ごとに期間を定めて行います。2026年の日程(予定)では、6月16日から11月18日までの間で、地区ごとに期間が組まれました。審査当日は書類の受付後に、性・毛色・特徴・マイクロチップの確認といった実馬の審査があり、DNA型検査による親子判定のための毛根も採取します。
- 血統登録証明書の交付:審査を経て登録されると、血統登録証明書と個体確認書が交付されます。個体確認書は、馬の健康手帳に貼付するものです。内国産馬の血統登録証明書は、概ね生まれた年の12月頃に発行されます。
- 馬名登録:血統登録証明書が発行されると、馬の所有者が馬名登録を申し込めます。馬名登録もJAIRSが担い、完了すると馬名登録通知書が届きます。
- 競走馬登録:JRAまたはNARの競走馬登録に進みます。
申込みに必要な書類と期限
登録規程は、血統登録の申込みに次の書類と登録料を添えるよう求めています。
- 血統登録申込書(申込みは馬の所有者が行います)
- 母馬の繁殖登録証明書(原本の提示が必要です)
- 種付証明書
申込期限は、生まれた年(当歳)の11月30日です。やむを得ない場合に限り、1歳の12月31日まで認められます。
血統登録の費用
2026年の定期登録審査の資料で、JAIRSが示しているサラブレッド(サラ系統)の費用は次のとおりです。金額は消費税と地方消費税を含みます。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 血統登録料(生まれた年の11月30日まで) | 16,000円 |
| DNA型検査手数料 | 2,800円 |
| 合計 | 18,800円 |
生まれた年の11月30日を過ぎると、血統登録料は倍額です。登録規程の別表では、内国産のサラブレッドを1歳の12月31日までに申し込む場合の血統登録料を32,000円としています。
血統登録の条件
父馬も母馬も繁殖登録を受けていること
登録規程第6条によると、血統登録を申し込めるのは次のいずれかの馬です。
- 内国産馬は、繁殖登録を受けた父母の間に生まれた馬
- 輸入馬のうち、繁殖の用に供する馬以外の馬
- 持込馬(種付けが外国で行われ、輸出国を出国した後に生まれた馬)は、母馬が繁殖登録を受けている馬
国内で種付けされ、国内で生まれた馬なら、父も母も繁殖登録を受けていなければ、血統登録の申込みはできません。
登録が認められる要件
登録規程第15条は、審査で登録が認められるための要件を挙げています。主なものは次のとおりです(持込馬と輸入馬は、一部の要件が除かれます)。
- 人工授精、受精卵移植、クローン技術その他の遺伝子操作によらない産駒であること
- 種畜証明書を持つ種雄馬の種付けによる産駒であること
- 性別がはっきりしていること
- DNA型検査または血液型検査で、親子関係に異常が認められないこと
- 毛色について、親子関係に異常が認められないこと
在胎期間が一般的に認められている範囲と著しく違う場合は、登録を行わないことがあります。申込みに虚偽や不正があれば登録は行われず、登録後でも取り消されることがあります。
人工授精の禁止は、国際的なルールでもあります。国際競馬統括機関連盟(IFHA)の国際協約は第12条で、人工授精や受精卵移植、クローンなどによって生まれた馬は、国際血統書委員会が承認した血統書に登録できないと定めています。理由については、JAIRSの「登録のあゆみ」に国際血統書委員会での議論の紹介があります。人工授精の解禁はたびたび議題になってきたものの、特定の種雄馬の産駒が集中的に増え、近親交配の弊害などが生じるのを危惧する見解が委員会で多数を占めていた、という内容です。
DNA型検査による親子確認
血統登録の審査では、書類と実馬の照合、実馬の審査、血統の審査に加えて、DNA型検査または血液型検査による親子関係・個体識別の審査とマイクロチップの審査を行います。
DNA型検査に使う毛根や血液は、登録規程上、馬の所有者が採取して提出するもので、JAIRSに採取を依頼することもできます。定期登録審査では、審査の場で毛根を採取します。JAIRSの「検査試料及び個体遺伝情報取扱方針」(2026年3月12日付)は、取り扱いを次のように示しています。
- 検査試料は、登録申込の際に利用目的を知らせたうえで提出を受け、検査機関に検査を委託します。
- 検査の委託先は、国際血統書委員会と国際動物遺伝学会が共同で定める基準を満たす検査機関で、日本では公益財団法人競走馬理化学研究所です。
- 検査試料の所有権と個体遺伝情報を保有する権利はJAIRSにあり、個体遺伝情報は公表しません。
- 検査試料と個体遺伝情報の保存期間は30年間です(必要な場合は延長することがあります)。
血統登録と競走馬登録の違い
血統登録は、馬が生まれた年に受ける身元の登録です。JRAの競馬用語辞典の言い方では、血統登録は「人間で言えば、戸籍に当たる」ものです。一方の競走馬登録は、レースに出走するための登録にあたります。競馬法第14条により、JRAが行う登録を受けた馬でなければ中央競馬の競走に出走させることはできません。同法第22条がこの規定を地方競馬に準用しており、地方競馬では地方競馬全国協会(NAR)の登録が必要です。
| 血統登録 | 競走馬登録(JRA) | |
|---|---|---|
| 登録先 | JAIRS | JRA |
| 申込者 | 馬の所有者 | 馬を所有している馬主(組合馬主を含む) |
| 主な時期 | 生まれた年(原則11月30日まで) | 原則はトレーニング・センターに入厩して馬体検査を受ける。1歳9月から2歳2月までの申請に限り、馬体検査のいらない早期特例登録も使える |
| 主な添付書類 | 母馬の繁殖登録証明書、種付証明書 | 馬名登録通知書、血統登録証明書、馬所有念書など |
| 登録料 | 16,000円(2026年の資料、内国産のサラブレッド、期限内) | 5,000円 |
JRAのよくあるお問い合わせによると、競走馬登録は、預託先の調教師を経由して美浦または栗東トレーニング・センターに申請します。申請にはJAIRS発行の馬名登録通知書のほか、血統登録証明書などを添えます。JRAの競馬用語辞典も、血統登録証明書について「これがないと競走馬登録ができない」と書いています。競走馬登録を申請する側の馬主になるための要件や手続きは、「馬主になるには?JRA・地方競馬の馬主登録の要件・流れ・費用を解説」が参考になります。
JRAとNARの規程の条文は、血統の証明書をどの団体が発行するかを名指ししていません。JRAの競馬施行規程は、競走馬登録の申請に添える血統の書類を「理事長の指定する団体の発行する証明書」に限るという書き方です。NARの業務方法書も、馬登録の申請に「馬の血統証明書」を添えるよう求め、それを「協会が別に指定する団体が発行する証明書」と定めます。一方、JRAの競馬用語辞典は「血統登録」の項で、現在の日本の競馬ではJAIRSの登録を受けた馬でなければ競走に出走できないと説明します。NARの馬登録申請書(平地用)にも血統登録番号を書く欄があり、JAIRSは、馬名登録通知書がJRAまたはNARの競走馬登録に必要になると案内しています。
血統書と国際的な枠組み
JRAの競馬用語辞典によると、初めての血統書ともいうべきものは、1793年にイギリスでジェームス・ウェザビィが刊行した「ゼネラル・スタッドブック」第1巻です。JAIRSの「登録のあゆみ」によると、その2年前の1791年には「序巻」が出版されていました。同じページは、日本で軽種馬の登録が始まったのを1925年とし、1923年に公布された競馬法(旧競馬法)によって登録が必要になったと説明します。
登録規程第21条により、JAIRSは登録した馬について原則として毎年、血統書を編さん発行します。ただし、JAIRSの出版物ページで案内している書籍版のサラブレッド血統書は、2001年収録分の第19巻までです。JAIRSが運営するインターネット血統書データベースサービスは「書籍版の血統書のインターネット版」と位置づけられ、繁殖成績は書籍版の第12巻から第19巻に収録された分と、2002年以降の分を収めています。
国際的な枠組みの中心にあるのが、血統書の承認や登録手続きの国際標準化を推進する国際血統書委員会(ISBC)です。JAIRSの血統書データベースにある「国際血統書委員会が承認する血統書一覧」(2023年2月14日現在)によると、委員会は1979年に創設され、JAIRSはアジア・オセアニア地域の代表メンバーとして参画しています。同じ一覧の日本の欄には、1982年に英国血統書など15の血統書とともに承認された、とあります。
サラブレッドの定義も、この枠組みと結びつきます。JAIRSの登録規程実施基準の別表によると、サラブレッドは次のいずれかに当たる馬です。
- 日本のサラブレッド血統書、または国際血統書委員会が承認した海外の血統登録機関の血統書に登録されている父と母の産駒
- サラブレッド系種として登録された馬に、サラブレッドとして登録された馬を連続8代以上交配して生まれた馬で、国際血統書委員会で承認されたもの
JAIRSの「登録のあゆみ」には、血統のすべての系統が1980年1月1日以前に発行された血統書に登録された馬へさかのぼれるもの、という定義が載っています。現行の実施基準の別表に、この日付の条件はありません。
確認できなかったこと
- サラブレッド血統書の書籍版について、第20巻以降の発行を案内する公式ページは確認できませんでした。