種牡馬・繁殖牝馬とは?2つの違いと繁殖入りまでの流れをわかりやすく解説

競馬の基礎知識

競馬を見ていると「種牡馬」「繁殖牝馬」という言葉をよく目にします。この記事では、それぞれの意味、2つの違いと共通点、競走馬から種牡馬・繁殖牝馬になるまでの流れを、JRA・JBIS・JAIRSなどの公式情報と法令で確認できた範囲でまとめます。

この記事で分かること

  • 種牡馬・繁殖牝馬の意味
  • 2つの違いと共通点
  • 競走馬から種牡馬・繁殖牝馬になるまでの流れ
  • 産駒・種付けなど基本用語
  • 本交配・妊娠期間などサラブレッド生産の基本
  • 数字で見る繁殖馬の規模感

結論

  • 種牡馬は父馬、繁殖牝馬は母馬のこと。JBIS-Searchの検索区分では、どちらも「過去に一度でも繁殖登録された」馬とされている。
  • 競走と繁殖の両方に使うことは認められていないため、繁殖馬にするには中央競馬・地方競馬の競走馬登録を抹消する必要がある(JRA公式FAQ)。
  • 繁殖牝馬になるにはジャパン・スタッドブック・インターナショナル(JAIRS)での繁殖登録が必要。種牡馬になるには繁殖登録に加えて、種畜検査を受ける必要がある(JRA公式FAQ)。
  • JAIRSの登録規程では、人工授精・受精卵移植・クローン技術などによらずに生まれた馬であることが、登録の要件の一つになっている。

種牡馬とは

種牡馬(しゅぼば)は、父馬のことです。JRAの競馬用語辞典によると、より速く強い馬を生み出すため、競走成績や血統のすぐれた馬が選ばれます。JBIS-Searchの検索区分では、種牡馬は「過去に一度でも繁殖登録された牡馬」です。

ここで注意したいのは、この区分が「過去に一度でも」となっている点です。JBIS-Searchでこの区分に入っていても、その馬が今も種牡馬として供用されているとは限りません。種牡馬がどこで供用されているかは、JBIS-Searchの「供用種牡馬一覧」で年ごとに確認でき、ヘルプは「供用場所、供用地」を、種牡馬が繁用されている牧場と地域としています。

繁殖牝馬とは

繁殖牝馬(はんしょくひんば)は、母馬のことです。JRAの競馬用語辞典は、子馬を生産する目的で飼養される牝馬としています。JBIS-Searchの検索区分では「過去に一度でも繁殖登録された牝馬」で、種牡馬と同じく、過去に登録されたことを示す区分です。

なお、JAIRSの統計の発表では「種雌馬」という語が使われています。この記事では、JAIRSの発表を紹介する部分では原文にそろえて「繁殖登録種雌馬」「種雄馬」と書きます。

種牡馬と繁殖牝馬の違い・共通点

項目種牡馬繁殖牝馬
性別牡馬牝馬
意味父馬母馬
必要な手続き(JRA公式FAQ)繁殖登録+種畜検査繁殖登録
JBIS-Searchの検索区分過去に一度でも繁殖登録された牡馬過去に一度でも繁殖登録された牝馬

共通点は次のとおりです。

  • どちらも、競走と繁殖の両方には使えない(中央競馬・地方競馬の競走馬登録を抹消してから繁殖入りする。JRA公式FAQ)。
  • どちらもJAIRSの「繁殖登録」を受ける。JAIRSは繁殖登録を「繁殖に供する馬の繁殖成績を明らかにする登録」としている。

繁殖馬になるまでの流れ

JRAの馬主向けFAQ(Q8-1)をもとに、現役の競走馬を繁殖馬にする場合の手続きを整理すると、次のようになります。

  1. 競走用と繁殖用を兼ねることはできないため、まず中央競馬(または地方競馬)の競走馬登録を抹消する。JAIRSの登録規程(第7条)も、競馬法にもとづく登録を受けた馬が繁殖登録を申し込むには、その登録が抹消されていることを条件にしています。
  2. 繁殖牝馬になるには、JAIRSで繁殖登録を受ける。
  3. 種牡馬になるには、繁殖登録に加えて、都道府県または独立行政法人家畜改良センターが行う種畜検査を受ける。

なお、JRAのFAQは検査を行う主体を「都道府県または独立行政法人家畜改良センター」としていますが、法律の条文(次項)では、毎年定期の検査は家畜改良センターが行い、都道府県知事が行うのは、病気などで定期の検査を受けられなかった場合の臨時の検査、という分担になっています。

種畜検査とは

家畜改良増殖法(第4条)は、馬などの雄は、家畜改良センターが毎年定期に行う検査を受けて農林水産大臣から種畜証明書の交付を受けていなければ、種付けに使ってはならないと定めています。検査は、伝染性疾患・遺伝性疾患・繁殖機能の障害がないかどうかについて行われます(同条第2項)。定期の検査にもとづく種畜証明書の有効期間は、検査の日から1年です(第6条)。病気などで定期の検査を受けられなかった場合には、都道府県知事が臨時に行う検査の規定もあります(第4条第1項第2号)。

つまり種畜検査は、種牡馬になるときに一度だけ受けるものではなく、種付けを続けるには原則として毎年の検査と証明書が必要な仕組みです(学術研究のための種付けなど、法令で定める例外もあります)。検査の具体的な方法や判定基準の細目は、公開されている資料からは確認できていません。

この検査は、生まれてくる子の登録にも関係します。JAIRSの登録規程第15条は、登録の要件の一つに「種畜証明書を有する種雄馬の種付けによる産駒」であることを挙げています(種付けが外国で行われた持込馬や、輸入馬には、この要件は適用されません)。

※家畜改良増殖法の条文は、2026年9月26日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行の条文で確認しました。法改正で内容が変わることがあるため、最新の条文はe-Gov法令検索でご確認ください。

JAIRSの登録審査

JAIRSの「登録審査の概要」によると、登録(血統登録と繁殖登録)にともなう審査として、主に次のことを行います。

  • 書類の審査と、書類の記載事項と実馬との照合
  • 実馬についての審査
  • 血統についての審査
  • DNA型・血液型検定による親子関係または個体識別の審査
  • マイクロチップについての審査
  • 輸入馬については、出生国・輸出国の血統登録機関が発行した輸出証明書の審査、その証明書と実馬の照合、その国の血統書との照合

繁殖登録を申し込める馬や申込みの期限などの細かな条件は、JAIRSの「登録規程」に定められています。

繁殖牝馬の側から見た種付けの手順

では、繁殖牝馬の馬主など、種付けを受けさせる側は、どのように相手の種牡馬を決めるのでしょうか。JRAの馬主向けFAQ(Q8-3)によると、種付けをするにはまず種牡馬を選び、その種牡馬の種付権利を手に入れる必要があります。権利の入手方法は種牡馬の所有形態によって異なり、個人やシンジケートが所有している場合は、種付権利の売買をあっせんする商社などに依頼するか、シンジケート会員個人と取引して得ることになります。

基本用語

用語意味
産駒種牡馬・繁殖牝馬から生まれた子馬のこと。JRAのFAQや用語辞典、JAIRSの登録規程でもこの語が使われているが、語そのものを定義した公式の説明は見当たらず、一般的な用法として説明する
種付けJRAの競馬用語辞典によると、繁殖のために、血統や成績のよい牡馬を種牡馬として繁殖牝馬に交配させること
種付料種付けの際の料金。JRAのFAQによると、競走成績や血統的な背景によって設定され、産駒が生まれた後は産駒の馬格や競走成績などによっても上下する
繁殖登録JAIRSが行う、繁殖に供する馬の繁殖成績を明らかにする登録
種畜検査種付けに使う雄が受ける検査。家畜改良増殖法にもとづき、家畜改良センターが毎年定期に行う(例外的に都道府県知事の臨時検査もある)。種牡馬になるには繁殖登録に加えてこの検査を受ける必要がある(JRA FAQ)
本交配この記事では、人工授精や受精卵移植によらない交配の意味で使う。JRA「馬の資料室」で人工授精・受精卵移植と対比して使われている語だが、語そのものを定義した公式の説明は見当たらない

サラブレッド生産の基本(本交配・妊娠期間)

人工授精などによらない生産が前提

JRA日高育成牧場のブログ「馬の資料室」(2021年7月27日)によると、サラブレッド競走馬の生産は本交配に限られています。同じ記事は、世界に目を向けると、乗用馬や繋駕競走用のスタンダードブレッドは人工授精や受精卵(胚)移植でも生産されている、と紹介しています。

規則の面では、JAIRSの「登録規程」(最終改正 令和元年12月27日)第15条が、登録の要件の一つとして「人工授精及び受精卵移植並びにクローン技術その他の遺伝子操作によらない産駒」であることを挙げています。JAIRSが行う軽種馬の登録はこの規程によって行うとされ、対象はサラブレッド、アラブ、アングロアラブ、サラブレッド系種、アラブ系種の5品種です(第1条・第2条)。

※登録規程は、2026年9月26日時点でJAIRS公式サイトに掲載されている版(最終改正 令和元年12月27日)を参照しました。改正されることがあるため、最新の規程はJAIRSの公式サイトでご確認ください。

妊娠期間

JRAの「馬の資料室」(2022年12月14日)によると、サラブレッドの分娩は、春の交配で妊娠した繁殖牝馬の飼養管理を約11か月間続けた末に迎えるものです。馬の正常な妊娠期間は一般に平均335日程度といわれ、ごくまれな例外も含めると300〜400日程度まで大きく前後することがあるといいます。

数字で見る規模感

種付けをした種雄馬・種雌馬の頭数(2025年)

JAIRSが2025年12月5日に公表した「2025年の種付情報」によると、次のとおりです(JAIRSの発表では「2025年12月1日現在の報告頭数」)。

  • 種付けした種雄馬:269頭
  • 種付種雌馬の延べ頭数:12,944頭(実頭数は11,060頭)
  • 最多種付頭数:237頭
  • 100頭以上種付けした種雄馬:46頭(うち200頭以上は6頭)

繁殖登録種雌馬の頭数

JAIRSが2025年12月18日に公表した「2025年の地区別繁殖登録種雌馬頭数及び繋養牧場数」では、2025年12月1日現在の種雌馬の頭数は11,732頭(発表文での表記は「11,732件」)で、10年前(2015年)の119.9%でした。一方、軽種馬の繋養牧場数は746件で、10年前の83.4%です。

確認できなかった数字

競走馬のうち何割が種牡馬・繁殖牝馬になるのかといった割合を示す公式データは見当たりません(2026年9月時点)。なお、上の頭数は「競走馬から繁殖入りした馬の割合」を示すものではありません。

関連記事

競走馬が引退したあとの進路全体については、当ブログの「引退した競走馬はどうなる?主な進路と支援の仕組みを一通り解説」で扱っています。

まとめ

  • 種牡馬は父馬、繁殖牝馬は母馬。JBIS-Searchの検索区分では、どちらも過去に一度でも繁殖登録された馬を指す。
  • 繁殖馬になるには、競走馬登録を抹消し、JAIRSで繁殖登録を受ける。種牡馬はさらに種畜検査を受ける(JRA公式FAQ)。種畜検査は毎年定期に行われ、種畜証明書の有効期間は1年(家畜改良増殖法)。
  • JAIRSの登録規程では、人工授精・受精卵移植・クローン技術などによらない産駒であることが登録の要件の一つ。
  • 2025年に種付けをした種雄馬は269頭、繁殖登録種雌馬は11,732頭(いずれも2025年12月1日現在、JAIRS)。
  • 個別の馬の現況は、牧場や公式サイトなどの日付つきの一次情報で確認するのが基本。

制度や統計は更新されることがあります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。
主な情報源: JRA公式サイト(馬主向けFAQ 8.繁殖、競馬用語辞典、日高育成牧場「馬の資料室」)、JAIRS公式サイト(登録審査の概要、登録規程、軽種馬登録ニュース)、JBIS-Search(ヘルプ、供用種牡馬一覧)、e-Gov法令検索(家畜改良増殖法)

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