「むかしは4歳馬のクラシックと言っていた気がする」「馬の年齢の数え方がよく分からない」と感じたことはないでしょうか。競走馬の年齢(馬齢)は、2001年に数え方そのものが変わっています。旧方式の「数え年」と現在の「満年齢」ではどこが違うのか、いつ・なぜ変更されたのか、変更によってレース名やJRA賞の部門名がどう変わったのかを、JRAと地方競馬(NAR)の公式情報をもとに整理します。
馬齢とは:JRA公式の定義
JRAの競馬用語辞典は、馬齢を「馬の年齢のこと。従来は数え年で数えられていたが、2001年度から、国際化の一環として、数え年から満年齢に変更された」と説明しています。現在の方式は、生まれた年を0歳と数え、その馬が生まれた年の1月1日から年齢を起算するというものです。
旧方式「数え年」の仕組み
地方競馬の公式情報サイト「KEIBA.go.jp」は、2001年の変更について「これまでの年齢から1歳減じた数え方が、馬の年齢となります」と案内しています。JRAの阪神ジュベナイルフィリーズのページにも「2歳(旧表記3歳)」という書き方があり、中央競馬でも新旧の差は1歳です。裏返すと、旧方式では生まれた年を1歳とし、1月1日を迎えるたびに1歳ずつ加える数え方だったことになります。
ある馬が1997年に生まれたとすると、旧方式では1997年が1歳、1998年が2歳、1999年が3歳、2000年が4歳です。実際の誕生日には関係なく、暦の年が改まるごとに歳が上がっていきます。
新方式「満年齢」の仕組みと起算日
新方式は、KEIBA.go.jpの表現を借りると「生まれた年を0歳とし、翌年の1月1日からは1歳とする」数え方です。先の例と同じ1997年生まれの馬であれば、1997年は0歳、1998年は1歳、1999年は2歳、2000年は3歳になります。
人の満年齢のように誕生日ごとに1歳ずつ増えるのではなく、同じ年に生まれた馬は1月1日にそろって1歳加わります。
新旧の表示は1歳ずれる
旧方式は生まれた年が1歳、新方式は0歳なので、同じ馬の同じ年の馬齢は、旧方式の表示が新方式より1高くなります。先の例で言えば、2000年のその馬は旧方式では「4歳」、新方式では「3歳」です。
このずれは、クラシック競走の表記にそのまま表れています。現在の皐月賞・日本ダービー(東京優駿)・菊花賞は、JRA公式サイトでいずれも「3歳オープン」の競走です。一方、インターネット・アーカイブ(Wayback Machine)に保存されている2000年当時のJRA公式サイトの重賞ガイドでは、第60回皐月賞、第67回日本ダービー、第61回菊花賞の条件がいずれも「4歳」と表示されています。1998年の第65回東京優駿の競走成績も「サラ系4歳」の競走として掲載されていました。
新方式に切り替わった2001年には、JRA公式サイトの第61回皐月賞のレポートが、優勝したアグネスタキオンを「牡3歳」と紹介しています。同じクラシック競走が、2000年までは「4歳」、2001年からは「3歳」と表記されるようになったわけです。
「四歳」の名が残るクラシックの前身
旧方式の表記は、クラシック競走の創設時の名称にも残っています。
| 現在のレース名 | 創設時の名称 | 現在の名称になった年 |
|---|---|---|
| 皐月賞 | 横濱農林省賞典四歳呼馬(1939年から横浜競馬場で開催) | 1949年(中山競馬場へ移ったのを機に改称) |
| 菊花賞 | 京都農林省賞典四歳呼馬(1938年12月に第1回) | 1948年 |
表の内容は、JRA公式サイトのレース紹介によります。菊花賞が現在の名称になった1948年は、国営競馬の時代でした。皐月賞の前身は、太平洋戦争中に横浜競馬場が海軍に徴用されたため、1943年以降は東京競馬場で行われていました。どちらも現在は3歳馬の競走で、名称の「四歳」は数え年による表記です。
馬齢表記の変更で改称されたレース
馬齢表記の変更は、レース名そのものにも影響しました。JRA公式サイトの解説では、1949年に東西の2歳戦を締めくくるレースとして、中山競馬場の「朝日杯3歳ステークス」と阪神競馬場の「阪神3歳ステークス」が創設されたとしています(いずれも当時の表記では3歳戦)。朝日杯の創設時の名称は「朝日盃3歳ステークス」で、1970年から「朝日杯3歳ステークス」となりました。
両レースは1984年のグレード制導入でGⅠに格付けされました。
格付け制度の仕組みは「グレード制(G1・G2・G3)とは?格付けの基準と決め方を解説」で取り上げています。
1991年からは、「朝日杯3歳ステークス」が出走資格を牡・せん馬に変更し、「阪神3歳ステークス」は「阪神3歳牝馬ステークス」と改称して牝馬限定になりました。JRAの阪神ジュベナイルフィリーズのページは、このときの条件を「2歳(旧表記3歳)牝馬」と書いています。
そして2001年、2つのレースは年齢の数字を含まない現在の名称に改められます。
| 2000年までの名称 | 2001年からの名称 |
|---|---|
| 朝日杯3歳ステークス | 朝日杯フューチュリティステークス |
| 阪神3歳牝馬ステークス | 阪神ジュベナイルフィリーズ |
JRAは、どちらの改称も「馬齢表記の国際基準への変更に合わせて」行ったと説明しています。
JRA賞の部門名も変わった
年間の優秀馬を表彰するJRA賞の部門名も、馬齢の数字が1つずつずれています。1998年1月にJRA公式サイトで発表された1997年度JRA賞(インターネット・アーカイブに保存)と、現在のJRA公式サイト「JRA賞 バックナンバー」に載っている同じ1997年度の表記を並べると、次のとおりです。
| 受賞馬(1997年度) | 1998年1月の発表時の部門名 | 現在のバックナンバーの部門名 |
|---|---|---|
| グラスワンダー | 最優秀3歳牡馬 | 最優秀2歳牡馬 |
| アインブライド | 最優秀3歳牝馬 | 最優秀2歳牝馬 |
| サニーブライアン | 最優秀4歳牡馬 | 最優秀3歳牡馬 |
| メジロドーベル | 最優秀4歳牝馬 | 最優秀3歳牝馬 |
| マーベラスサンデー | 最優秀5歳以上牡馬 | 最優秀4歳以上牡馬 |
| エアグルーヴ | 最優秀5歳以上牝馬 | 最優秀4歳以上牝馬 |
サニーブライアンは、この年の皐月賞と日本ダービーの勝ち馬です。当時の発表では「最優秀4歳牡馬」でしたが、現在のバックナンバーでは「最優秀3歳牡馬」として掲載されています。
現在のバックナンバーは、掲載している1987年度以降のすべての年度を「2歳」「3歳」「4歳以上」の部門名で統一しています。1997年度のように、発表当時とは部門名の数字が違う年度があるということです。古い資料や当時の記事を読むときは、どちらの数え方で書かれているかに注意すると、年齢や部門名の食い違いに戸惑わずにすみます。
いつから変わったのか
JRAの競馬用語辞典の表記は「2001年度から」です。2001年1月時点のJRA公式サイトのトップページには「2001年より馬齢表記が国際基準に」という告知が掲載されており、2001年1月14日に行われた京成杯のレポートでも、優勝したボーンキングが「牡3歳」と紹介されています。2001年1月の時点で、JRAはすでに新しい表記を使っていたことになります。
地方競馬(NAR)での扱い
地方競馬も同じ時期に満年齢へ切り替えています。KEIBA.go.jpの「地方競馬における馬齢など表記の変更について」によると、地方競馬では2001年1月1日から、諸外国で採用されている数え方と同様に、生まれた年を0歳とし、翌年の1月1日から1歳とする数え方になりました。
あわせて、KEIBA.go.jpに掲載する出馬表や競走成績表などの表記も、2001年1月1日(一部の主催者は4月)から統一されました。同じページが挙げる主な変更点は次のとおりです。
- 馬の性別:「雄・雌」から「牡・牝」へ
- 馬齢の文字:「才」から「歳」へ
- 着差:「鼻、頭、首」の漢字表記から「ハナ、アタマ、クビ」のカタカナ表記へ
なお、KEIBA.go.jpは、2000年12月31日までの馬の年齢や競走名は旧来の表記のままとしています。地方競馬の古い成績を調べるときも、2000年以前は数え年の表記である点に注意が必要です。
国際基準との関係
JRA用語辞典は2001年度の変更を「国際化の一環」と位置づけ、朝日杯フューチュリティステークスと阪神ジュベナイルフィリーズの解説でも「馬齢表記の国際基準への変更」という言葉を使っています。
JRAが海外競馬のルールを紹介するページを見ると、アメリカ・イギリス・フランス・アイルランドについては、いずれも「JRA同様、生まれた年を0歳と数え、生まれた年の1月1日から年齢を起算します」としています。現在のJRAの方式は、これら北半球の4か国と同じです。
一方、南半球産の馬については、起算日が1月1日ではない国・地域があります。同じJRAのページによると、主な扱いは次のとおりです。
| 国・地域 | 北半球産馬 | 南半球産馬 |
|---|---|---|
| アラブ首長国連邦(ドバイ) | 生まれた年の1月1日 | 生まれた年の7月1日 |
| サウジアラビア | 生まれた年の1月1日 | 生まれた年の7月1日 |
| 香港 | 生まれた年の1月1日 | 南米産は生まれた年の7月1日、南米以外の南半球産は生まれた年の8月1日 |
オーストラリアは8月1日が起算日です。1月1日から6月30日までに生まれた馬は前年の8月1日から、7月1日から12月31日までに生まれた馬は母馬への種付けの時期によって生まれた年か前年の8月1日から年齢を数えます。ただし、JRAがオーストラリアの競馬の馬券を発売する際の出馬表では、現地主催者の発表にかかわらず、北半球産馬の馬齢を生まれた年の1月1日から起算した年齢で掲載するとしています。同じ馬でも、どの国のルールで数えるかによって表示される年齢が変わることがあるわけです。
確認できなかったこと
- JRAが2001年1月にトップページで告知していた馬齢表記変更のお知らせは、本文を読める形で残っていません。JRAの規程上の正式な施行日(1月1日なのか、別の日付なのか)を示す資料は見当たりません。
- 2000年度JRA賞(2001年1月発表)の当時の発表資料は残っておらず、JRA賞の部門名がどの年度の発表から現在の表記になったのかは確認できません。