中央競馬(JRA)の競走馬がふだん暮らし、調教を受けているのは、茨城県の美浦トレーニング・センターと滋賀県の栗東トレーニング・センターの2か所です。「トレセン」と略されるこの施設には、調教師が経営する「厩舎」が集まり、調教師・調教助手・厩務員がそれぞれの持ち場で競走馬を支えています。季節によって差はあるものの、厩舎スタッフの1日は午前4時ごろに始まり、調教は早朝から午前中にかけて行われます。施設の規模や職種ごとの役割と免許、馬主との預託契約、見学の案内は、JRAの公式サイトと競馬法・競馬施行規程に具体的に示されています。
結論
- 中央競馬の調教拠点は、東日本の美浦トレーニング・センター(1978年開設)と、西日本の栗東トレーニング・センター(1969年開設)の2か所です。JRAの競馬用語辞典によると、どちらにも常時約2,000頭の競走馬がいます。
- 「厩舎」は、競走馬が暮らす建物を指すほか、JRAの免許を受けた調教師が経営し、自分が雇う調教助手・厩務員とともに運営するチームの意味でも使われます。
- 馬主は調教師と預託契約を結び、馬を入厩させます。調教師との預託契約がない馬は、JRAの競走馬登録を受けられません。
- 調教の時間帯は季節で変わり、夏は美浦が午前5時から9時30分、栗東が午前5時から9時です。美浦のページには、調教時間が変更となる場合があるという注記があります。
- 見学できる場として、美浦のターフプラザ(2026年の案内では水曜日・金曜日と中央競馬の開催日に開館)や両トレセンのイベントが公式に案内されています。開館日やイベントの日程は変わることがあるため、出かける前にJRAの最新の案内を確かめてください。
美浦と栗東:2つのトレセンの概要
JRAの競馬用語辞典によると、トレーニング・センター(トレセン)は「競走馬を調教する施設」で、中央競馬には栗東トレーニング・センターと美浦トレーニング・センターの2か所があります。JRAの各トレセンのページは、美浦を「中央競馬の東日本地区における調教拠点」、栗東を「中央競馬の西日本地区における調教拠点」と紹介しています。
基本データの比較
| 美浦トレーニング・センター | 栗東トレーニング・センター | |
|---|---|---|
| 所在地 | 茨城県稲敷郡美浦村 | 滋賀県栗東市 |
| 開設 | 1978年4月 | 1969年11月 |
| 敷地 | 約224万平方メートル(東京ドーム約48個分) | 約150万平方メートル(甲子園球場約40個分) |
| 主な調教施設 | トラック型調教コース、1,200mの坂路調教馬場、競走馬スイミングプール、森林馬道 | 6つのトラック型調教コース、全長約1kmの坂路調教コース、競走馬スイミングプール、逍遥馬道 |
| 厩舎と競走馬 | 約100の厩舎で約2,000頭 | 2,000頭を超える競走馬(厩舎の数の記載なし) |
厩舎の数は美浦のページにだけ、トラック型調教コースの数は栗東のページにだけ載っています。頭数や厩舎数はいずれも概数で、いつ時点の数かはどちらのページにも書かれていません。
栗東のページによると、栗東トレセンには厩舎のほか、競走馬診療所、調整ルーム、乗馬苑などの施設もあります。
関東馬と関西馬
JRAの競馬用語辞典によると、栗東トレセンに所属する馬は関西馬、美浦トレセンに所属する馬は関東馬と呼ばれます。どちらのトレセンの馬も、周回コースや坂路コース、競走馬スイミングプールなどを使って、レースに向けたトレーニングを積んでいます。
栗東トレセンができた経緯
JRAの栗東トレセンのページによると、トレセンができるまでの競馬場は、競馬を開催する場所であると同時に、競走馬が生活し、調教も行う場所でした。1950年代半ばになると、高度経済成長を背景に競馬場の周辺で市街化が進み、競走馬を飼育管理する場所として適さなくなっていきました。競馬人気の高まりで競走馬の頭数も増え、競馬場の厩舎だけでは手狭になったといいます。
そこで打ち出されたのが、レースの施行とファンサービスに特化した「競馬場」と、一定の自然環境の中で競走馬の管理と調教に専念する「トレーニング・センター」を分ける構想です。京都・阪神・中京の各競馬場へのアクセスがよく、広い土地がある現在の滋賀県栗東市に、1969年11月、栗東トレーニング・センターが誕生しました。この年の8月に中京競馬場から人馬が移って調教が始まり、11月に阪神競馬場、1970年12月に京都競馬場から人馬が移っています。坂路調教コースは1985年に全長394mで完成し、3度の延長工事を経て、1992年に1,085mになりました。
美浦トレセンについては、JRAの「トレセンとは」のページに1978年4月に開設されたことが書かれていますが、栗東のような沿革の欄はありません。
厩舎とは:調教師が経営するチーム
JRAのページを見ると、「厩舎」という言葉は2つの意味で使われています。1つは、競走馬が生活する建物です。栗東トレセンのページにある「2,000頭を超える競走馬が生活するための厩舎」は、こちらの意味です。
もう1つは、調教師を中心にしたチームです。美浦トレセンのページによると、調教師はJRAから免許を受けて厩舎経営を行います。栗東トレセンのページも、調教師が、雇用している調教助手・厩務員とともに厩舎を運営すると紹介しています。
JRA競馬学校の「厩舎スタッフの仕事」のページは、このチームを会社にたとえ、調教師が社長、厩舎スタッフが従業員にあたると説明します。ここでいう厩舎スタッフとは、競走馬の調教や管理の責任者である調教師のもとで、馬を世話する人のことです。
騎手には、厩舎に所属して活動する騎手と、どの厩舎にも所属しない「フリー」の騎手がいます。JRAのトレセンのページによると、騎手はレースでの騎乗に加えて、調教にも騎乗します。
調教師・調教助手・厩務員の役割
JRAの各トレセンのページが示す、職種ごとのおおよその人数と役割は次のとおりです。
| 職種 | 美浦 | 栗東 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| 調教師 | 約100名 | 約100名 | 馬主から競走馬を預かり、管理・調教してレースに出走させる。厩舎の経営者 |
| 調教助手 | 約750名 | 約950名 | 調教師の指示で競走馬の調教を行い、調教師を補助する |
| 厩務員 | 約460名 | 約250名 | 担当馬の飼育管理、運動、手入れ、馬房の掃除などの厩舎作業を行う |
| 騎手 | 約70名 | 約70名 | レースに騎乗するほか、調教にも騎乗する |
人数も概数で、時点の記載はありません。栗東のページは、このほか獣医師(約45名)と装蹄師(約70名)を挙げ、報道関係者や警備スタッフなど「約2,000名を超える人々」が働いているとしています。
調教師
美浦トレセンのページによると、調教師の仕事は、馬主から競走馬を預かり、管理・調教して最良のコンディションでレースに出走させることです。厩舎の経営者として、雇用している厩務員・調教助手の労務管理も重要な仕事になります。栗東トレセンのページは、調教メニューや出走するレースを決めるのも調教師だと紹介しています。
調教助手
調教助手は、調教師の指示を受けて競走馬に騎乗して調教を行い、調教師の補助を担います。栗東のページによると、競馬場での装鞍や馬装といった業務や、出馬投票や登録といった事務手続きを、調教師の代理として行うことも仕事のうちです。
厩務員
厩務員は、調教師の指示のもとで担当馬の飼育管理、運動、手入れ、馬房の掃除などを受け持ちます。調教に騎乗しない厩務員と、調教に騎乗できる「調教厩務員」がいます。
JRAの競馬用語辞典は、厩務員を、トレーニング・センター場長の承認の上で調教師と雇用契約を結び、厩舎で競走馬の世話をする人と定義しています。担当は原則として1人あたり2頭です。
免許と承認のしくみ
調教師は免許制です。競馬法第16条は、農林水産省令の定めるところにより、JRAが行う免許を受けた調教師または騎手でなければ、中央競馬の競走のために馬を調教したり騎乗したりできないと定めています。
JRAの競馬施行規程の主な決まりは次のとおりです。
- 調教師の免許は、免許試験に合格した人に与えられます(第43条)。試験は毎年2回以内で、受験できるのは28歳以上です。外国で調教の免許を受けている人には例外があります(第44条)。
- 免許の有効期間は、原則として免許の日から1年間です(第50条)。
- 調教助手は、調教師が毎年理事長の承認を受けて置き、馬の調教の補助をさせます(第56条)。
- 厩務員を置くときは、調教師が氏名と生年月日を競馬場長またはトレーニング・センター場長に届け出て、承認を受けます(第58条)。
- 騎手は、どのような名義であっても、調教のために馬主から馬の預託を受けることはできません(第59条)。
地方競馬の調教師・騎手の免許は、JRAではなく地方競馬全国協会(NAR)が行います。競馬法第23条の36は、協会の業務の1つに「調教師及び騎手を免許すること」を挙げています。
馬主と調教師の関係:預託契約
馬主が自分の馬を調教師に預ける契約が、預託契約です。JRAの馬主向けページ「競走馬をめぐる人々」によると、馬主は調教師と競走馬の預託契約を結び、美浦・栗東のトレセンに馬を入厩させます。調教師は、レースに向けて競走馬の調教と管理を行います。
預託契約に関わる決まりは、競馬施行規程とJRAの馬主向けページに次のように載っています。
- 調教師との間に預託契約が結ばれていない馬は、競走馬登録を拒否されます(競馬施行規程第21条第1項第6号)。
- 調教師は、馬の所有者と預託契約を結んだときと、その契約を解除したときに、競馬場長またはトレーニング・センター場長を経てJRAの理事長に届け出る義務があります(同規程第55条)。
- 馬主が競馬に関して代理人にできるのは、調教師に限られます(同規程第13条)。JRAのFAQは、馬を出走させるのに必要な預託契約・競走馬登録・出馬投票について、すべて調教師を代理人として委任できるとしています。
- 預託料は、飼料代や飼育・調教費用など、馬の飼養管理にかかる費用です。美浦・栗東のトレセンでの預託契約は馬主と調教師の直接契約で、預託料は厩舎によって異なります。JRAの馬主向けページは、目安を1頭1か月70万円程度としています。
なお、競馬施行規程第7条第8号により、調教師・騎手・調教助手・騎手候補者・厩務員は馬主登録を受けられません。馬主登録の要件や流れ、費用は「馬主になるには?JRA・地方競馬の馬主登録の要件・流れ・費用を解説」で、競走馬登録から入厩までの流れは「競走馬の一生」で説明しています。
競走馬登録を抹消した馬は、JRAの施設から退厩します。JRAのFAQによると、その後の行き先は馬主と調教師が話し合って決めます。引退後の主な進路は、「引退した競走馬はどうなる?主な進路と支援の仕組みを一通り解説」でまとめています。
調教の時間帯と厩舎スタッフの1日
トレセンの調教時間
調教は、季節ごとに決まった時間帯に行われます。JRAは、寒さに強く暑さに弱い競走馬に適した気温の中で調教できるよう配慮した時間帯だと説明しています。
| 季節 | 美浦 | 栗東 |
|---|---|---|
| 夏 | 午前5時から9時30分 | 午前5時から9時 |
| 春・秋 | 午前6時から10時30分 | 午前6時から10時 |
| 冬 | 午前7時から11時30分 | 午前7時から11時 |
美浦のページには「調教時間は変更となる場合があります」という注記があります。
厩舎スタッフの1日
JRA競馬学校の「厩舎スタッフの仕事」のページは、季節によって1時間から2時間の差があるとしたうえで、厩舎スタッフの1日を次のように紹介しています。
| 時刻の目安 | 作業 |
|---|---|
| 午前4時ごろ | 厩舎に出て、担当馬に異常がないか確認する |
| そのあと | 馬房を掃除する(ボロや尿で汚れた寝わらを出し、新しい寝わらを入れる) |
| 午前5時過ぎ | 騎手や調教助手がすぐ騎乗できるよう馬具をつける「馬装」を行う |
| そのあと | 馬にまたがり、厩舎のまわりを歩いてウォーミングアップをする |
| 午前6時 | 馬場に入って調教を開始する |
| 調教のあと | 騎乗したまま厩舎の周囲を歩き、クーリングダウンをする |
| 午前7時ごろ | 洗い場で汗を流して馬の手入れをし、体調や脚に異常がないか確認する。馬房に戻して飼い葉を与える |
| 午前10時ごろ | 担当のもう1頭の馬にも同じ作業を行い、朝の作業を終える |
| 午後2時ごろ | 再び厩舎に行き、馬の手入れ、寝わらの片付け、飼い葉をする |
| 午後5時ごろ | すべての作業が終わる |
調教ゼッケンとヘルメットの色
トレセンで調教する馬は、馬ごとに決められた番号の調教ゼッケンを着けます。ゼッケンの地の色は、性別と年齢・時期で分かれています。
| 区分 | 2歳9月頃まで | 2歳10月頃から3歳9月頃まで | 3歳10月以降 |
|---|---|---|---|
| 牡馬・せん馬 | 緑地 | 黒地 | 青地 |
| 牝馬 | 黄緑地 | 桃地 | 黄地 |
文字の色は、美浦と栗東で異なります。たとえば2歳9月頃までの牡馬・せん馬は、美浦が橙文字、栗東が白文字です。
GⅠレースに特別登録した馬は、レースの前の一定期間、馬名入りの「特殊ゼッケン」を着けます。GⅠレースを勝った馬のゼッケンは馬名入りの専用のもので、星の数が勝ったGⅠの数を表します。GⅠ(J・GⅠ)以外の中央競馬の重賞の勝ち馬も、馬名入りのゼッケンです。美浦のページは、地方競馬のダートグレード競走を勝った馬もこの対象に挙げています。
トレセンで調教するときは、あらかじめ決められた色のヘルメット(帽色)を着用しなければなりません。JRAが挙げる主な例は次のとおりです。
| 区分 | 美浦 | 栗東 |
|---|---|---|
| 騎手 | 水色 | 青 |
| デビュー1年未満の騎手 | 黄 | 黄(新規騎手) |
| 調教師・調教助手 | 黒 | 黒 |
| 調教厩務員 | 橙 | 橙 |
| 競馬学校の生徒 | 赤・白染分 | 赤・白染分け(騎手課程生徒) |
トレセンの見学・イベントの案内
トレセンの見学やイベントの案内は、JRAの各トレセンのページに載っています。以下は2026年の案内の内容です。開館日やイベントの日程は変わることがあるため、実際に出かけるときは、JRAの最新の案内を確かめてください。
美浦トレセン
美浦トレセンのターフプラザ4階の展望フロアは、調教コースを一望できる場所です。美浦トレセンのページによると、開館日は水曜日・金曜日(年末年始を除く)と中央競馬の開催日(通常は土曜日・日曜日)で、開催中止に伴う代替競馬の開催日も開館します。JRAは2026年1月の発表で、2026年から開館日をこのように拡大したと伝えています。開館時間は午前9時から午後4時30分、入場は無料です。4階以外には、イベントの開催時を除いて立ち入れません。
毎月第2水曜日には、調教馬場が開場する15分前からターフプラザを開く「ターフプラザ早朝開館」があり、自由参加で調教を見学できます。開館時刻は季節で変わり、2026年の予定では、7月から9月が午前4時45分、1月から3月と11月・12月が午前6時45分です。
そのほか、JRAの美浦トレセンのイベントのページには、次のような催しが載っています。参加の抽選や事前応募が必要なものが多く、実施日が近づくと日程や応募要領がJRAのホームページで知らされます。
- 施設見学ツアー(参加抽選):調教コースや競走馬スイミングプールなどを見て回ります。
- ファミリーで馬に親しむ日(参加抽選):乗馬苑で体験乗馬やエサやりをします。
- 馬バナ(自由参加。回によっては事前応募制):騎手や調教師などの厩舎関係者や、獣医師・装蹄師などが仕事の話をするイベントです。
- トレセンのお仕事体験(参加抽選):小学生・中学生が、トレセンで働く人たちの仕事を見学・体験します。
栗東トレセン
栗東トレセンのイベントのページが案内しているのは、小学生と保護者を対象にした「トレセン親子体験ツアー」と、中学生と保護者を対象にした「トレセン職場見学ツアー」です。ツアーを実施するときは、JRAのホームページと栗東トレセン内の「お知らせ」で知らせるとしています。2026年は、中学生向けのツアーが「トレセン職場体験ツアー」という名称で、7月に参加者を募集しました。
栗東のイベントのページには、美浦のターフプラザのように決まった曜日に開館する見学施設の案内は確認できませんでした。栗東トレセンで働く騎手・厩務員・獣医師・装蹄師の1日に密着したVR動画は、JRAの公式YouTubeチャンネルで公開されています。
