鹿毛、栗毛、芦毛など、競走馬の毛色にはいくつもの呼び名があります。競走馬として登録されるサラブレッドの毛色は、血統登録を担う公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル(JAIRS)が認める8種類に決まっています。それぞれの毛色の特徴、芦毛が歳をとるにつれて白くなっていく理由、血統登録で確かめられている毛色の親子関係、白毛の遺伝をめぐる公式情報の食い違い、毛色ごとの頭数の統計があるのかを、JRAとJAIRSの公式情報と、芦毛の遺伝子を調べた学術論文をもとに見ていきます。
サラブレッドという品種そのものについては、「軽種馬とは?サラブレッドとアラブ・アングロアラブの違いを解説」で取り上げました。
要点
- JRA公式サイトのサラブレッド講座「毛色の種類」によると、サラブレッドの毛色はJAIRSが認める栗毛・栃栗毛・鹿毛・黒鹿毛・青鹿毛・青毛・芦毛・白毛の8種類です。JAIRSの公式ページも同じ8色を英語表記つきで挙げています。
- 芦毛は栗毛・鹿毛・青毛などを原毛色とし、年齢が進むにつれて白色の度合いが強まる毛色です。JRAの競馬用語辞典とJAIRSは白くなる速さや最終的な色合いに個体差があるとしていますが、JRAのサラブレッド講座は「純白になります」と言い切っています。
- 芦毛の原因となる遺伝子の変異については、日本のサラブレッドも調べた2024年の学術論文が、Syntaxin 17(STX17)という遺伝子の中の配列の重複であり、その重複の数で白くなる速さが変わると報告しています。
- JAIRSの登録規程は「毛色について親子関係に異常が認められなかった馬」であることを登録の要件の一つにしています。実施基準では、白毛を除く毛色について、芦毛でない父母から芦毛の子が生まれた場合と、栗毛どうしの父母から栗毛以外の子が生まれた場合を、親子関係の異常としています。
- 白毛の遺伝については、JRAの2つの公式ページで記述が食い違っています。サラブレッド講座は「十分解明されていません」とし、競馬用語辞典は2つの機序が解明されていて、どちらもc-KIT遺伝子の突然変異によるとしています。
- 似たように白色毛が混じる粕毛(かすげ)は、白い部分の範囲が限られ、年齢が進んでも色合いが変わらない点で芦毛と区別されます。
- サラブレッドの登録には使われない月毛・佐目毛・駁毛などの毛色の呼び名もあり、北海道和種やポニーなどで見られます。
サラブレッドの毛色は8種類
JRA公式サイトのサラブレッド講座「毛色の種類」は、「サラブレッドの毛色は、公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナルで認められているものが全部で8種類あります。競走馬もこれにあわせて分類されます。」と説明しています。JRAの競馬用語辞典の「毛色」の項目にも、サラブレッドの毛色は8種と決められているという説明があります。
血統登録を担うJAIRS自身も、「馬の毛色と特徴-毛色」のページで同じ8色を英語表記つきで示しています。JRAのサラブレッド講座とJAIRSのページによると、各毛色の特徴は次のとおりです。
| 毛色 | 読み | 英語表記 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 栗毛 | くりげ | Chestnut | 被毛は黄褐色。長毛は被毛より濃いものから白色に近いものまである。 |
| 栃栗毛 | とちくりげ | Chestnut(栗毛と同じ表記) | 被毛は黒みがかった黄褐色から黒みの非常に濃いものまであるが、黒色にはならない。 |
| 鹿毛 | かげ | Bay | 被毛は明るい赤褐色から暗い赤褐色まで。長毛と四肢の下部は黒色で、ここが栗毛との違い。 |
| 黒鹿毛 | くろかげ | Dark Bay | 黒みがかった赤褐色から、相当黒く見えるものまで。眼の周辺、腋、ひばら、下腹、内股は褐色で、長毛と四肢の下部は黒色。 |
| 青鹿毛 | あおかげ | Brown | 全身ほとんど黒色。眼や鼻の周辺、腋、ひばらなどがわずかに褐色。 |
| 青毛 | あおげ | Black | 被毛・長毛ともに黒色。軽種馬では比較的少ない。 |
| 芦毛 | あしげ | Gray | 原毛色は栗毛・鹿毛・青毛等。白色毛が混じり、年齢とともに白さの度合いが強くなる。 |
| 白毛 | しろげ | White | 生まれたときから白色または大半が白色。JRAは、眼に色素があり皮膚の一部に有色の斑点があることから、いわゆるアルビノではないとしている。JAIRSは、眼が青色のものもあり、皮膚はピンクで一部に色素を持つものがあるとしている。 |
JAIRSの英語表記では、栗毛と栃栗毛がどちらも”Chestnut”です。同ページは「英語表記は、海外では栗毛と栃栗毛が区別されていないため、栗毛と同じである」と注記しています。
サラブレッド講座は、それぞれの毛色の代表産駒も挙げています。鹿毛はディープインパクトやウオッカ、栗毛はグラスワンダーやオルフェーヴル、黒鹿毛はナリタブライアンやエルコンドルパサー、芦毛はオグリキャップやゴールドシップ、白毛はユキチャンやブチコなどです。JRAの競馬用語辞典は白毛を「非常に珍しく、日本には数頭しかいない」としていますが、いつ時点の頭数かは示していません。
芦毛はなぜ歳をとると白くなるのか
白くなり方には個体差がある
JRAの競馬用語辞典「芦毛」の項目によると、芦毛の原毛色は栗毛(栃栗毛を含む)、鹿毛(黒鹿毛・青鹿毛を含む)、青毛などで、被毛全体に白色毛が混生し、年齢が進むにつれて白色の度合いが強くなります。ただし、その進み方は個体によってまちまちで、純白になるものから原毛色をわずかに残したままのものまであるといいます。出生時は原毛色に白色毛がわずかに混じる程度(特に眼の周囲に多い)で、生まれてすぐの段階では芦毛と判定しにくい場合もあります。JAIRSの「馬の毛色と特徴-毛色」のページも、ほぼ同じ内容です。
一方、同じJRA公式サイトのサラブレッド講座「毛色の種類」は、芦毛について「年齢が進むにつれて白色の度合いが強くなり純白になります」と書き、個体差には触れていません。全ての芦毛が純白になるわけではないという点では、競馬用語辞典とJAIRSの説明のほうが詳しい内容です。
原因はSTX17遺伝子の中の配列の重複
芦毛のしくみを遺伝子のレベルで説明しているのは、JRA・JAIRSの公式ページではなく学術論文です。2024年に学術誌Nature Communicationsに掲載された論文「An intronic copy number variation in Syntaxin 17 determines speed of greying and melanoma incidence in Grey horses」は、競走馬の薬物検査や、軽種馬の親子判定・個体識別のためのDNA型検査を行う公益財団法人競走馬理化学研究所の研究者も共著者に加わり、日本のサラブレッドの家系も分析に含めています。
この論文によると、芦毛は年齢とともに毛の色素が失われる一方、皮膚の色素は減らない毛色です。原因となる変異は、Syntaxin 17(STX17)という遺伝子の中にある4.6kbの配列が重複したものと報告されてきました。論文は、この配列が2コピー並ぶタイプ(G2)と3コピー並ぶタイプ(G3)の2種類があり、G3を持つ馬は速く白くなり、G2を持つ馬はゆっくり白くなること、2つのうちG3のほうがはるかに多く見られることを示しています。芦毛の白くなる速さに個体差がある理由の一つが、この重複の数の違いだということです。
白色毛が混じっても年齢で変わらない粕毛
白色毛が混じる毛色は、芦毛だけではありません。JRAの競馬用語辞典にある粕毛(かすげ)は、原毛色が栗毛・鹿毛・青毛等で白色毛が混じる点は芦毛と似ていますが、白色毛が生じるのは主に頸・躯幹・四肢の上部で、年齢が進んでも白色の度合いが変わりません。辞典は「芦毛との違いは、白毛の生じる部位が限定されること、年齢に関係なく当歳時から色合いの変わらないことである」と、この2色を明確に区別しています。
毛色の遺伝について、公式情報でわかること
血統登録では「毛色の親子関係」も確かめられている
JAIRSの登録規程は、血統登録を「血統及び個体識別を明らかにする登録」と定め、血統登録原簿に記載する事項には、品種・性・生年月日・特徴などとともに毛色が含まれます。登録の要件の一つは「毛色について親子関係に異常が認められなかった馬」であることです(第15条)。
この「異常」の中身を定めているのが、JAIRSの登録規程実施基準(第9条)です。白毛以外の7種の毛色について、次の2つに当てはまる馬を、毛色の親子関係に異常がある馬としています。
- 芦毛以外の父母の間に生まれた馬が、芦毛である場合
- 栗毛(栃栗毛を含む)の父母の間に生まれた馬が、栗毛以外である場合
裏を返せば、白毛を除く7色の範囲では、芦毛の馬の父母の少なくとも一方は芦毛であり、栗毛どうしの両親からは栗毛(栃栗毛を含む)の子しか生まれない、という扱いです。白毛は、この基準の対象から外れています。
同じ実施基準は、父か母のどちらかが芦毛または白毛で、芦毛の遺伝子検査による判定が必要な場合には、その結果をもって毛色を記載すると定めています。JAIRSの2025年度の事業報告書によると、登録審査で採取した毛根によるDNA型検査は競走馬理化学研究所に委託されており、その個体識別の検査には芦毛の遺伝子検査も含まれています。
白毛の遺伝は、JRAの2つのページで記述が食い違う
サラブレッド講座「毛色の種類」の白毛の項目には、「この毛色の発現はサラブレッドでは十分解明されていません」とあります。一方、JRAの競馬用語辞典の「白毛」の項目は、白毛の発生には「優性白とサビノ白の2つの機序が解明されており」、どちらもc-KIT遺伝子の突然変異によるもので、家系によって変異が異なるとしています。同じJRAが運営する2つのページで、白毛の遺伝が「解明されていない」のか「解明されている」のか、記述がそろっていません。
サラブレッド登録には使われない毛色の呼び名
JRAの競馬用語辞典には、サラブレッドの登録で使う8色のほかにも、馬の毛色を表す呼び名が載っています。月毛(つきげ)は被毛がクリーム色から淡い黄白色のもので、国内では北海道和種によく見られ、米国から乗馬として輸入されるパロミノもこの毛色に属するとされています。佐目毛(さめげ)は被毛・長毛が象牙色で眼は青色、皮膚はピンクという毛色で、北海道和種にいくつか見られる程度で頭数は少ないといいます。駁毛(ぶちげ)は体に大きな白斑があるもので、日本ではポニーやペイントホースに多いとされています。河原毛(かわらげ)は、被毛が淡い黄褐色から艶のない亜麻色までで、長毛と四肢の下部が黒色の毛色です。
なお、尾花栗毛(おばなくりげ)は8色とは別の毛色ではなく、栗毛の中でもまえがみ・たてがみ・尾毛が白いものを指す呼び名です。尾がススキの穂(尾花)のように見えることから、こう呼ばれます。
毛色ごとの頭数や割合の公式統計はあるのか
毛色ごとの生産頭数や割合を示す公表統計は見当たりません。JAIRSは「統計データベース」のページで、種雄馬の供用予定頭数や名簿、種雌馬の繁殖成績、種付頭数、生産頭数、登録申込状況、血統登録頭数などの統計を公表しています。ただし、生産頭数は「地域別生産頭数」、血統登録頭数は「内国産血統登録頭数(品種別)」「内国産血統登録頭数(性別)」のように、地域・品種・性別で区分したものです。白毛が日本に何頭いるかを示す公表統計も、この中にはありません。
確認できなかったこと
- 白毛以外の7色について、原因となる遺伝子の名前や優性・劣性の関係を説明したJRA・JAIRSの公式資料は見当たりません。
まとめ
- サラブレッドの毛色は、JAIRSが認める栗毛・栃栗毛・鹿毛・黒鹿毛・青鹿毛・青毛・芦毛・白毛の8種類で、競走馬もこの区分に従って分類されています。
- 芦毛は、栗毛・鹿毛・青毛などの原毛色に白色毛が混じり、年齢とともに白さの度合いが強くなる毛色です。白くなる速さや最終的な色合いには個体差があります。2024年の学術論文は、白くなる速さを分ける要因の一つが、STX17遺伝子の中の配列の重複の数の違いであると報告しています。
- JAIRSの血統登録では、白毛を除く毛色について、芦毛でない父母から芦毛の子が、栗毛どうしの父母から栗毛以外の子が生まれた場合を、毛色の親子関係の異常として扱っています。登録審査のDNA型検査には、芦毛の遺伝子検査も含まれています。
- 白毛の遺伝については、JRAのサラブレッド講座が「十分解明されていません」とする一方、競馬用語辞典はc-KIT遺伝子の突然変異による2つの機序が解明されているとしており、記述が食い違っています。
- 白色毛が混じる範囲が限られ、年齢によって色合いが変わらない粕毛は、芦毛とは区別されます。
- 毛色ごとの生産頭数や割合を示す公表統計は見当たりません。
制度や統計の内容は更新されることがあります。最新の内容は各公式サイトで確かめてください。
